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―― 告白の行方 上
Written by Shia Akino
女官長に手伝いを断られたケリーは、城内にあるベルミンスターの居室へ向かった。
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室内にはユーリーとセーラが二人だけで、並んで絵本を広げている。 「セーラ。探してたスカーフ、これじゃないか?」 庭木の天辺からとってきたスカーフを差し出すと、セーラは満面の笑みを浮かべて飛びついてきた。 「見つけてくれたのね! ありがとうケリー! 大好き!!」 強引に屈ませられて何かと思えば、お礼と称した口付けが頬に落とされる。 まったく、あの団長の娘とはとても思えない可愛らしさだ。 「ねえ、ケリー。わたしが大きくなったら、ケリーの奥さんにしてくれる?」 突然の申し出に、ケリーは瞬いてセーラを見やった。 申し込みを受けたのは初めてではないが、これほどストレートなのは珍しい。それこそあの女王様に匹敵するかもしれない。それが六歳の女の子からとなると、まったく初めての経験だ。 一人前に恥らっている様子は微笑ましく愛らしかったが、まさか受けるわけにもいかない。 笑いを堪えながら何と答えるべきかと思案しているうちに、ユーリーが不満そうに口を出した。 「そういうことは父上と母上が決めるんだぞ!」 「お父さまもお母さまもいいと言うに決まってるわ。だってケリーよ?」 いやそれはどうだろう。 反射的に“お父さま”の反応を想像してしまって、ケリーは思わず吹き出しかけた。 とりあえずここで笑ったらまずかろうと震える腹筋を宥めているうちに、子供達の口論はヒートアップしていく。 「そうじゃなくて、ええと……女からそんなこと言うなんてはしたないんだぞ!」 「シャーミアンは自分から言ったって聞いたわ。オシカケニョウボウと言うのですって。ユーリーはあの方がはしたないって言うの!?」 「そん……そんなこと言ってないじゃないか!」 「言ってるわ!」 この年頃の同い年の子供は、たいてい男の子より女の子の方が口が達者だ。 「お……おまえなんか、ケリーが相手にするもんか!」 「あなたはだまってなさい、ユーリー!」 ぴしゃりと言われて目を白黒させるユーリーがさすがに哀れになってきて、ケリーはなんとか笑いを飲み込んで口を挟んだ。 「残念だけどな、セーラ。俺にはもう“奥さん”がいるんだ」 掛け値なしに本当の事ではあるが、今のケリーが言っても本当らしく聞こえないだろう事実である。 しかし相手は子供だった。 笑い飛ばすでもなく、疑うでもなく、きょとんとして問い返す。 「そうなの?」 「そうなんだ」 真面目くさって重々しく頷けば、セーラは難しい顔をして視線を落とし――顔を上げて、晴れやかに笑った。 「じゃあわたし、ソクシツでもいいわ!」 「…………っ」 予想外の一言に、ケリーは反射的に息を止める。笑い出さないためにはそうするしかなかった。彼女なりに真剣な申し出を吟味している風を装いながら、無呼吸の限界に挑戦する。 きょとんとしていたユーリーが、ソクシツってなに? とこっそり聞いた。 バカねぇ、奥さんの次に好きな人っていみよ! と得意そうにセーラが答えたので、ケリーは腹筋やら表情筋やら、いろんな限界に挑戦する羽目になった。 側室というのは国王が持つものだし、それ以外は“愛人”とか“妾”とか呼ばれるのが普通である。ベルミンスターとサヴォアの血を引く令嬢になれるものではない。 その国王にしても、彼女を正式に側室として立てるには、他国の王女でも妻に迎えているのでなければ無理というものだ。 「ねえ、ケリー。いいでしょう?」 その認識は微妙に違う――とは、わざわざ口にすることでもないだろう。もう何年かすれば自ずと理解する事柄だ。 ケリーはそう考えて、咳払いをしてからこう答えた。 「それはいま決められることじゃないな。大きくなったらって言わなくてもいいくらい大きくなってから、もう一度言ってもらえるか?」 セーラは少々不満そうだったが、押し掛け女房ってのはそういうもんだ、と言えばしぶしぶながら納得した。 押し掛け女房にしろ側室にしろ、いったいどこで覚えてきたのやら――女と言う生き物は、小さくてもなかなか侮れない。 そんな事を思いつつ、ケリーはその場を後にした。
これは[両者の類似]のおまけ拍手でした。いただいたコメントで調子に乗って続きを書いたので、別ページで再アップ。
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