客人の夫君 おまけ
Written by Shia Akino
 女王と海賊の推察通り、そのころルウは半泣きだった。
 ただし、金の天使は睨んでいない。相棒の大失態に怒っていたのは僅かな間で、今は無表情に目を伏せている。
 沈黙が痛い――とは、ダイアナは思わなかった。機械である彼女は痛みを感じない。
 ただ、生気のない金の天使が彫像のようで、息はしているのかしらと時折思った。
「天使さん達、お茶にしない? シェラがパイを焼いてくれたわ。甘くないのもあるわよ」
「俺はいい」
「……ぼくも」
 幽かな光を取り逃がすたび、ルウは手放しで泣きたくなった。
 リィの時とは違う。ケリーはラーの一族ではない。彼らの手は借りられない。
 ――どうして、と思う。
 どうしてあの時、道を固定しなかったのだろう。あの人の気配を確かに感じて、なのに。
 次元を隔てた今はただ、ルウが作った指輪の光が幽かに遠く明滅するだけ。
「ねえちょっと、あなた達!」
 突然ダイアナの声が鳴り響いた。鳴り響くというに相応しく、部屋中に反響するほどのボリュームだ。
「いい加減にしてちょうだい、まるでお葬式じゃないの! ――天使さんっ!!」
「は、はいぃ!?」
「あなたがジャスミンを置いてきたのは、ケリーが居るところで間違いないんでしょう!?」
「そ、そうです……けど」
「じゃあ今ごろ二人して、その国の人達を困らせてるに違いないんだから! あなた達はお茶! 起立!!」
 厳しい声に反射的に立ち上がったのは、リィとルウとほぼ同時。思わず顔を見合わせる。
「キッチンでシェラが待ってるわ。なんだか大量に作ってたから、ゾンビさん達も呼びました! 全部食べるまでお葬式モードは禁止です!」
 ダイアナは憤然と言い切ってから、小さな子供に言い聞かせるような柔らかな声で続けた。
「ちゃんと食べなきゃ駄目よ。やせ細ったところなんて見せて御覧なさい、ケリーもジャスミンも絶対に本気で怒りますからね?」
 ――それは怖い。
 あの二人が本気で怒ったところなんて考えたくない。怖すぎて。
 ようやく僅かに笑った二人は、肩を並べてキッチンへと向かった。



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―― Fin...2008.10.29
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 パラス・アテナ船内。大学惑星の宇宙港に停泊中。ルウとリィとシェラはたぶん、学校サボって詰めっきり。そんな感じ。
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