ジェームス君の憂鬱
Written by Shia Akino
英雄の条件』後日談行き当たりばったり企画。
アンケ組み込み選択式ノベルをやってみよう!

ノベルゲーム風に選択肢を提示して、投票を行います。多い方に進んでみる――と、そういう企画です。
あくまでifというかお遊びなので、いろいろ大目に見てやってください。
選択肢とか展開とかでご要望があれば、コメントなり拍手なりでどうぞ。出来そうだったら考慮します。

ことはじめのこと

 連邦大学公共図書館の閲覧室で、ジェームスは頭を抱えていた。閲覧画面に表示されているのは、三十年から五十年以上も前に報道されたニュースやゴシップ、公開されていた個人の日記などである。
「やっぱりない、か……」
 “海賊王”“キング・オブ・パイレーツ”などのキーワードで検索したもろもろの情報を前に、深い溜息を吐いて目を閉じる。長時間端末を見つめ続けていたせいか、まぶたの裏で奇妙な光がちかちかと瞬いた。
 探しているのは、ジェームスの知るケリーとキング・ケリーを結ぶ何かだ。
 海賊王が結婚したとか子供が出来たとかいう話でも良いし、容姿性格に父子と言える共通点でもあればなお良い。
 だが、数日を費やして得られたのは、すでに耳にしたような英雄譚ばかり――顔はおろか、当時彼が何歳くらいであったのか、それすら諸説あって判然としない。
 それもそのはず、噂とはそもそも個々人の間で交わされるもので、検索して出てくるような形では残り難いものなのだ。海賊王がその存在を公共の電波で取り上げられた事は一度もないし、だいたいが裏社会の人物である。表に出てくる話など、ほんの表層――あぶくみたいな代物だった。
 また、ジェームスは知る由もなかったが、クーアの情報管理も完璧だったといえる。
 副総帥が閉鎖中のゲートを跳んだことは、当時目撃した個人の日記ですら一言も触れられていないのだ。
 ジェームスに統合管理脳を攻略できるほどの腕があれば、ケリーと呼ばれた義眼の海賊が百以上のゲートを私蔵していた事や、密かにトリジウム鉱床を発見していた事、当時の軍や警察がクーア副総帥に目を付けていた事などを探り出せたかもしれない。
 また、非合法を旨とする者共の世界に相当深くまで入り込めれば――そして戻って来られれば――静止画のひとつくらいは手に入ったかもしれない。
 だが当然、どちらもジェームスに出来る事ではなかった。そんな手段はまったく思い浮かびもしない。
 万策尽きて――というかそもそも策などないに等しいのだが――それでもやっぱりどうしてもどうしてもどうしても気になって仕方がないジェームスは、頭を抱えてしばらく考え込んだあと、決心して立ち上がった。
 金銀天使が言うように名誉毀損で訴えられるのはゴメンだが――言いふらすんじゃなくて、こっそり聞いてみるのはどうだろうと、そう考えたのだった。

   >>> 船乗りのお父さんに聞いてみる > 57%
   >>> ケリーの奥さんに聞いてみる > 43%

船乗りのお父さんに聞いてみた

「ねえ父さん。聞いてもいい?」
 ダン・マクスウェルの災難は、そんな一言から始まった。
 なんだ? と促せば、神妙な顔つきの息子は僅かに躊躇ってから口を開く。
「父さんはさ、海賊王に会った事はないんだよね?」
 探るようなその言葉で、ダンの背筋に悪寒が走った。
 恨みを買った宇宙海賊が徒党を組んで襲って来た時よりもぞっとした。
 冷水を浴びせられたかのように背には冷たい汗が浮き、たぶん一瞬息も止まった。
「………………ない」
 どうにかこうにか平静を装ってそう答える。かろうじて嘘ではない。少なくとも、海賊王時代の彼に会った事はない。
「でも噂は聞いた事あるよね?」
「まあな」
「結婚したとか……噂になった事ってない?」
 ――知らない。
 ダンが宇宙に出た頃、あたりまえだが彼はとっくに引退していた。クーアの会長室に納まっていたのだから当然だ。
 仮に結婚当時には噂になっていたのだとしても、十五年も語り継がれるほど信憑性のあるものではなかったのだろう。
 突如裏舞台から姿を消した事に関しては、“死んだ”とか“引退した”とかいう順当な説から、“密かに軍に捕まって幽閉されている”とか“顔も名前も変えて実は俺がキングだ”とか、種々雑多な憶測その他がなされたらしい。
 ダンが船乗り見習いになった頃には、“一方通行のゲートを跳んで戻って来られなくなった”というのが一番有力な説として語られていたように思う。
 ――それを信じていたかった。
 そんな事を考えて思わず遠い目になってしまったダンは、じれたような息子の声に我に返った。
「父さんってば! 結婚したとか、子供が出来て引退したとか、そういう噂はなかった?」
「……何が言いたいんだ?」
 質問に質問を返せば、ジェームスは焦ったように視線をさまよわせる。躊躇う様子を見せた後、別の問いを口にした。
「ケリーのさ、お父さんに会った事ってある?」
「ない」
 今度は即答だった。会った事がないどころか、そんなものは存在しないのだ。
「なにが言いたいんだ、ジェームス」
 煮えきらない態度に、ダンは少し声を強める。
「ええとその、」
 ジェームスはやはり焦ったように視線をさまよわせ、意を決したように一つ頷いてから窺うようにダンを見上げた。
「ケリーってさ、キングの子供じゃないかと思ったんだけど……」
 ダンはギシリと凍り付いた。
 今度はたぶん、息と同時に鼓動も止まった。
 キングの子供――それは、自分だ。
 恐ろしい事に。
 ほとんど凍死体と化しているダンだったが、亀の甲より年の功――傍目には落ち着いても見えるらしい。
「父さんはどう思う? 何か知らない?」
 無邪気なジェームスの問いかけは、死刑宣告のような響きでもってダンの耳に届いた。

   >>> とても言えたもんじゃないので誤魔化す > 81%
   >>> 仕方がないので本当の事を言ってみる > 19%

とても言えたもんじゃないので誤魔化すぞ

 しばし続いた沈黙は、ジェームスには居心地が悪かった。
 ――呆れられているような気がする。
 大いなる誤解ではあったが、ジェームスは落ち着きなく足を踏み変えて父親の顔から目を逸らした。
「どうしてそんな事を考えたんだ?」
 妙に平淡な父親の声。
「だってほら、この前――リジーを送って行った時の跳躍、父さんも見たでしょう?」
 飛べないはずの宙(そら)を飛ぶ、神出鬼没の海賊ケリー――最高速度のまま安定度数六十二のゲートを跳んだあの跳躍は、まさしくキングの称号に相応しいとジェームスは思う。
 本人のわけがないから息子か、もしかしたら孫か。
 いずれ血縁には違いないと思い込んでいたジェームスは、再度の沈黙に意気込みを殺がれておずおずと上目遣いにダンを見上げた。
 深い溜息がひとつ。
「ジェームス。お前は父さんの子供だな?」
「うん」
「安定度数八十七のゲートを跳べるか?」
 ジェームスは目を見開いて慌てて言った。
「跳べないよ、そんなの!」
「父さんは跳んだぞ」
「だってそれは――俺はまだ子供だし!」
「じゃあ、大人になったら跳べるか?」
 畳み掛けられ、押し黙って俯く。
 30年前ならともかくも、今は自由跳躍が主流なのだ。重力波エンジンの操作は一通り習うが、卒業後一度も重力波エンジンに触れない者の方が多い。
「……跳べない、と、思う」
「そうだろう。親子だからって同じような事が出来るとは限らない」
 重々しく言ったダンは、百戦練磨の船長だけあって外面だけは完璧だった。嘘は吐いていないし、突っ込み所のない正論でもある。
 実は実感もこもっている。
 キングの息子にあんな跳躍が出来ないのも事実なのだ。
「レオナールおじさんを覚えているか? おじさんは八十六までならなんとか跳べると言っていたぞ。親子じゃなくたって出来る者には出来るんだ」
 どうかこれで納得してくれ、忘れてくれ――と、ダンは内心青くなって祈っている。
 レオナールおじさんというのは南部宙域の貿易商で、ジェームスが生まれる前からダンと付き合いのある老船長だ。高齢でもう引退したが、現役時代にはたいそう世話になった大恩人で、ジェームスとも面識があった。
「それは――そうだけど……」
 ジェームスは言葉を濁して眉を寄せる。
 正論だというのは分かった。それは確かにそうなのだが、なんだかもやもやと気分は晴れない。
 では、六十二の数値しかないゲートを最高速度で跳躍するような人が他にいるとでもいうのだろうか。まったくの赤の他人で?
 考え込んだジェームスの頭を、宥めるようにダンが叩く。
「宇宙は広いぞ、ジェームス」
 そう言われてしまえば、食い下がるのは難しかった。

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